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みみずくんとの闘いに力尽きたかえるくん亡き後、片桐は東京を守ることができるのか?村上春樹『かえるくん、東京を救う』

 

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

 

 

アニメ『輪るピングドラム』の中で、陽毬ちゃんが探していた本が村上春樹の短編小説集『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)の中に収録されている『かえるくん、東京を救う』。

 

ストーリーとしては、

ある日、40歳独身の冴えないサラリーマンの片桐が仕事から帰ると、家に巨大な蛙(かえるくん)が居て、3日後に東京に大地震が起こって15万人の死者が出ると。で、それは地底に住むみみずくんが引き起こすものだから、一緒にみみずくんをやっつけて、東京を救おうっていうお話。

 

 

文学とアニメっていうのは、表現方法においてすごく似てるなあと思うところがあって、それはメタファーが用いられるところなんだけど、

 

『かえるくん、東京を救う』なんてまさにそういう作品で、

 

 

「かえるくん」とか「みみずくん」が何のことだか分からないと、

 

「・・・・で?」

 

って感じになってしまう作品なのではなのではないかと思います。

 

 

片桐

物語の主人公・片桐は40歳で独身のしがないサラリーマンです。壁の薄い安アパートに一人で暮らしています。

仕事は、信用金庫で、16年間ずっと、誰もやりたがらない返済金の取り立てを担当し、やくざに囲われ殺してやると脅されることもありました。

両親を早くに亡くし、自分ひとりで弟と妹の面倒を見、大学にも行かせ、結婚までさせてあげました。

 

 

そんな片桐の前に突然現れたかえるくんは、言います。

 

 

かえるくん ─────

人がやりたがらない地味で危険な仕事を16年間も愚痴のひとつも言わずに黙々とやってきたのに評価されないのはおかしいと。

 

 

また、

 

これまで自分の時間と収入を大幅に犠牲にして育ててあげたあなたに対して、恩を仇で返すようなことばかりしているあなたの弟と妹を、ぼくがわりにぶん殴ってやりたいんだと。

 

 

かえるくん。

それが意味するものは、不平、不満、文句。殴りたい、怒りの感情─────

 

 

 

そして、かえるくんは、みみずくんについて説明します。

 

 

みみずくん─────

みみずくんは地底に住んでいて、腹を立てると地震を起こす。そして今みみずくんはひどく腹を立てているんだと。

 

「みみずくんがその暗い頭の中で何を考えているのか、それは誰にもわからないのです。みみずくんの姿を見たものさえ、ほとんどいません。彼は普段はいつも長い眠りを貪っています。地底の闇と温もりの中で、何年も何十年もぶっつづけで眠りこけています。当然のことながら目は退化しています。脳味噌は眠りの中でねとねとに溶けて、なにかべつのものになってしまっています。実際の話、彼はなにも考えていないのだと僕は推測します。彼はただ、遠くからやってくる響きやふるえを身体に感じとり、ひとつひとつを吸収し、蓄積しているだけなのだと思います。そしてそれらの多くは何かしらの化学作用によって、憎しみというかたちに置き換えられます・・・・・・」

 

 

みみずくん。

それが意味するものは、ストレスやイライラ。梶井基次郎檸檬』における「えたいの知れない不吉な塊」のようなもの─────

 

 

 

 

生態ピラミッドにおけるカエルとミミズの関係を考えてみると、カエルが上位の捕食者で、ミミズは下位の被食者です。カエルはミミズを食べる(消化する)ことで食物連鎖が成り立っています。

 

つまり、普段は、不平、不満、文句を言ったり怒りの感情を表現すること(=かえるくん)で、ストレスやイライラ(=みみずくん)を消化しているわけですが、

 

 

かえるくんの数が少なくなったり、かえるくんがお腹いっぱいなっちゃったり(文句を言えなかったり、怒りの感情を出せなかったり)、みみずくんが増殖しちゃったり(過剰なストレスや過多なイライラを受けたり)すると、生態系が崩れ、さらなるみみずくんの大量発生や巨大化を促す(ストレスやイライラが憎しみに変わる)わけです。

 

 

片桐は、上司から評価されなくても弟妹から感謝されなくても、愚痴や文句を言うことはありませんでした。でも実際は、心の奥底に不満が蓄積され爆発寸前だったわけです。

 

 

よくありますよね。気が弱くておとなしい人がプッツンして凶悪な事件を引き起こしちゃうってこと。

 

 『涼宮ハルヒの憂鬱』で言うと、精神状態が不安定になったハルヒが創り出す閉鎖空間のようなものだったり、

魔法少女まどか☆マギカ』で言うと、魔法少女ソウルジェムが真っ黒くなって魔女に変わってしまうようなことだったり。

 

  

 

もちろん最後に病室で破裂したかえるくんの身体から這い出してきた蛆虫やむかでなどの暗黒の虫も、かえるくんが捕食したものなので、みみずくんと同類のものであることは言うまでもありません。

 

 

はたして、

かえるくんが阻止した、みみずくんによる東京の大地震とは何だったのでしょうか?

かえるくんは、なぜ、みみずくんの大地震を阻止することができたのでしょうか?

かえるくんがいなくなってしまった後、片桐はどのような生活を送っていくのでしょうか?

 

 

村上春樹の傑作短編小説『かえるくん、東京を救う』

 

 

東京には、ひどいものはとくにこれ以上必要ないものね。

今あるものだけでじゅうぶん