都の女を愛した山賊は『桜の森の満開の下』で何を知ったのか?
満開の桜の木の下で宴会などするようになったのは江戸時代以降のことで、それまでは、桜の花の下は怖ろしいものとして、その下を歩くことさえ避けられていた。
その昔、鈴鹿峠に住んでいた一人の山賊。
人の命を情容赦なく奪っていたその男も、唯一怖れていたのは桜の花の下だった。
ある日、都の美しい女に出会った山賊は、その女の夫を殺して自分の妻にする。
山賊は美しい女のために尽くし、毎日心をこめたご馳走を作るが、都の女の口に合うわけはなく、女の口から出るのは不満ばかり。
自分が一番強く、不自由なく自分の思い通りに生きてきた山の中では起こりえなかった感情。
価値観の異なる女を満足させることができないもどかしさ
知らないことに対する羞恥心
自分が傷つけられるのではないかという不安
ひがみ
嫉み
自分には理解できない他人への怖れ
そして、
・・・・孤独
「なんだか、似ているようだな」
「似たことが、いつか、あった」
それは・・・・
「背負っておくれ。こんな道のない山坂は私は歩くことができないよ」
「ああ、いいとも」
そして桜の森が彼の眼前に現れてきました。
風に吹かれた花びらがパラパラと落ちています。
男は満開の花の下へ歩きこみました。
桜の森の満開の下で男に起こった不思議な出来事とは────
愛するということは、孤独を知ることだった。